いつか読みかえすかもしれない「病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘」 [本]
一言でいうと
がんとの戦闘の歴史であり、がんとは何かというミステリーの本。
「がんとは何ですか」という問いに何年もかけて答えた本。
3つポイントをあげると
「がんの治療法の歴史」
最古の記録は紀元前2625年前後。
"乳房の隆起するしこり"、"治療法はない"
そうパピルスに記されている。
紀元前440年頃に書かれたヘロドトスの「歴史」に記述あり。
ペルシアの王妃アトッサがギリシャ人奴隷医師に乳がんを切りとらせたと。
2世紀に活躍したガレノスは、黒胆汁が溜まることががんの原因とした。全身性の病。
以降、治療法は怪しい薬と瀉血と下剤の時代が続く。
外科手術は愚かな治療法とされた。
ただそれは経験則でもあった。外科手術に必要な2つの技術が存在していないから。
そして人類が消毒と麻酔を手に入れた19世紀。
外科手術の時代が来る。
より深く切り取ろう。完璧な外科手術でがんを根こそぎ摘出しよう。
ブラックジャック的だ。
だが、取り除いてもがんが再発する人々がいる。
そして化学療法の時代が始まる。1947年に小児白血病に葉酸拮抗薬が投与された。
それまで、なす術のなかった白血病が治った。
いや、完治したわけではない。わずかな寛解期間がもたらされただけ。やがて再発する。
そして、敗北とささやかな勝利の歴史が繰り返され、そして現代へ。
このがんの歴史。自分が生まれた年以前以後で、見え方が違う。
さらに今この時点での治療法も、いずれ過去になる。
現在進行形の戦記が見えてくる。
「ラスカライツ」
小児白血病に化学療法を行った医師シドニー・ファーバー。
彼と共に、アメリカがん撲滅運動の先頭のたったのが、プロの名士でありロビイストであるメアリー・ラスカー。
彼女の存在が、凄くアメリカ的。
国の金庫をこじ開け、がん撲滅運動を始める。
そのための情熱、組織作り。ひたすらパワフルに進む。
がん撲滅を国家的事業にするという目標に向かって。
ラスカライツと呼ばれた活動家達。彼女らのパワーが、凄くアメリカ的。
間も無くがんは撲滅できるという楽観。
一方で、わずかな寛解期間を手にするだけという、ぼんやりとした現実。
それもまたアメリカ的。
「個人的エピソード」
病気であるから、それはとても個人的なエピソードにあふれている。
この本の始まりは、著者の元のやってきた急性白血病患者のカーラ。30歳の保育士の物語で始まる。
ジミー少年。小児がんを患っているある少年がいた。
ボストンブレーブスの大ファンだった彼は、小児がん研究基金のマスコットになった。
ボストンレッドソックスのフェンウェイスタジアムには、野球少年の絵が描かれている。
それがジミー基金であり、ファーバーの研究基金となった。
患者であり、がんの戦場の前線に立った人々の話。
読者である我々も、いつその前線に立ってもおかしくないという事実もまた。
著者は、がんの臨床と生物学のどちらにも興味があるという。
そういうところが、知りたいという欲求に答えている。
上下巻、計800ページの重みがある本でした。
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